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8月6日に想う(その2)。

今回も、前回の記事でもお話させていただいた、特に印象に残っている高校時代の私の恩師の思い出の話をしたいと思います。

この先生は小学校の時代に原爆を体験され、国語を教えてくださっていました。
授業は、淡々と話され面白い授業をされていました。

ただ1つだけ、その先生が授業の中で非常に怒りをあらわにされた物語があったのです。
それは、ノーベル文学賞を受賞した大江健三郎の『ヒロシマ・ノート』です。

当時はこの作品はまだノーベル賞をもらっていませんでしたが、教科書に載っていたこの話を先生が読まれた時のことでした。

教科書には、『8月6日だというのに、タクシーの運転手さんはカープの噂話ばかりをしていました。』というような、くだりがありました。

その時です。いつもは淡々とした話し方をされる先生が、その瞬間いつもと違った感じになり、急に怖い顔になったのです。

私はとても驚きました。そして、先生は次のようにおっしゃいました。

「大江健三郎は、有名な作家かもしれんけど、広島のことを何もわかっとりゃあせんね。カープがどうして出来たかを、この人は本当に知っとるんかいなあと思うよ。」

「原爆で何にもなくなって、本当に何にもなくなってしまった広島で、ましてや生きるのに精一杯の状態で、当時は何の楽しみもなかったんじゃ。」

「ただどうやって食べていくか考えるばかりの毎日の時、誰かが、何かに楽しみがあってもいいんじゃないかという考えを広めて樽募金を始め、広島に野球の球団を作る運動を進めてくれたんじゃ。」

「それで、野球も全く知らんおじいちゃんやおばあちゃんも、大枚を樽の中に募金してくれたんじゃ。」

「そしていろんな会社がそれを応援して、できたのが今の広島カープじゃ。純血主義(※当時の広島カープは外国人選手がいませんでした)というけど、本当はお金がなくて、外人を雇うことができんかったんじゃ。」

「それだから弱いのは当たり前で、またそれが脈々と受け継がれてこられ、広島で原爆を体験した人は、みんな弱くても、カープを応援しとったんじゃ。」

「タクシーの運転手さんが、8月6日にカープのうわさ話をしていても、それは当然のことなんじゃ。8月6日だからこそなんじゃ。」とお話されました。

なるほどこのようにして、広島カープはできたのかと、本当に目からウロコのような話でした。

樽募金のことは私も知ってはいましたが、どうして当時は弱小と言われ、野球界のお荷物ともさえも、言われた球団が生き残っているのか、広島で生まれ育った私でさえ不思議だったのです。

私をまさに、眼の中に入れても痛くないほど、可愛がってくれた祖母が、全く野球のルールもまったく知らないのに、「今日はカープは勝ったんかいのー?」と、よく聞いていました。

「ばあちゃん、ダメじゃ、今日も負けとるよ」と答えても、「ほーかい。残念じゃがカープは負けてもええんじゃ。カープがなくなってしもうたらこれほど悲しいことはないんよ。どれだけぎょうさんの人がなけなしのお金を樽に入れて、カープを創って、選手も安い給料でがんばてくれとるんじゃ。原爆のつらさから楽しみを少しでも、もらえたんよ。」とよく言っていました。

今、東日本大震災と比較するのはお門違いかもしれませんが、津波で流されてしまい何もなくなった東北に、芸能人やボランティアの人がたくさん集まり、東北の人を支援するのは、とても素晴らしいことだと思います。私ごとですが、娘も2年前にはボランティアで宮城に行ってきました。

広島に原爆が落とされた時代の話に戻りますが、当時の広島は誰も応援する人がなく、ケロイドを持った人が多く、被曝された方は、あることないこといろいろな差別をうけていたのです。

広島では、昭和30年代には、原爆症で苦しむ才能ある方々が、体調の良い短時間で、子供相手に習字や絵を教えておられることが多々ありました。私も、小学校入学前に習った、絵や習字の先生はとても優しく、ケロイドがありましたが、何の不思議とも思いませんでした。同じようにケロイドを持った方はたくさんおられ、子供から見れば、これは「大人になればみんなこんな傷ができるんだろうな-」と、思っているほどケロイドがある方は多かったのです。

私の母は被爆者ですが、当時、今の西区におり直接の被爆は逃れましたが、母を探しに今の廿日市市地御前から母を探しに歩き回って、原爆投下中心地の中区に行った祖父が、「これは、ほんとの地獄絵じゃったわ。」とよく話していたことが、子供心に思い出されます。

いつもは温厚な国語の先生の真剣な、そして、気迫迫る授業は今でも強く心に残っています。

今のカープの活躍を見ながら、また高校時代の先生の話を思い出している、今日この頃です。

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